東京訴訟第1回期日後集会のご報告

8月6日,東京訴訟第1回期日の後,15時から弁護士会館で集会を開催しました。

期日が14時から14時35分頃まであって,その後設営隊がダッシュで会場に向かったのですが,着いたら既にマスコミ関係者がずらりとカメラを並べていて,参加者が座る席が少なくなってしまっていました…。机のない席になってしまった方,すみません。

更に,期日の後に,裁判所と原告被告が集まって進行協議をすることになり,裁判長に「14時50分に集合」と言われてしまったので,団長の関哉弁護士をはじめとした,集会で前に並ぶ方々が集会開始時刻の15時に大幅に遅れることに。おかげで,司会の前田弁護士から期日の手続きの豆知識が聞けたりして楽しかった!と言ってくれた人がいたとかいないとか…。

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さて,進行協議期日のために裁判所に残っていた関哉弁護士らがようやく集会会場に到着しました。集会の開始です。

まずは,髙辻弁護士による原告代理人陳述の再現です。

高辻弁護士

これ、誰が期日に原告代理人の意見陳述を読むか、という話になった時、満場一致で即座に髙辻弁護士に決まりました。(押し付けたわけじゃないですよ!) とっても素敵な声で、聞き取りやすい話し方ですよね。ご本人は、前に出るのが苦手でドキドキしたとおっしゃっていましたが、全然そんな風に見えませんでした。

事前にずいぶん読み上げの練習もなさっていたのに、当日になって急遽原稿を変更することになって、それでもあのクオリティです。さすがと言うほかありません。

なお、会場からも質問がありましたが,参加者の皆さまにお配りしたのが,もともとの難しい言葉で書かれたバージョンです。法廷では,それをわかりやすい言葉に直して陳述しました。また,法廷内のスクリーンで写していた,パワーポイントの資料も同じように再現しました。(パワーポイントは簡単な言葉に直す暇がなくてそのままだったのはご愛嬌ということで…)

 

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次に,原告北さんの意見陳述の再現。

裁判の時よりも,ずいぶんリラックスして原稿を読んでいらっしゃいました。裁判ではやはり緊張されていたのですね。法廷の証言席に立つなんてことは,経験したことがない人の方が圧倒的多数だと思います。「すっごい緊張する!」「頭が真っ白になる!」という話もよく聞きます。それを考えると,法廷で堂々と陳述された北さんは,本当にすごいなと思います。(そういえば,司会の前田弁護士も,「初めて法廷に立った時は緊張した」と言っていましたね。個人的には,それ絶対嘘だと思っています。)

 

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次に,仙台訴訟原告の飯塚さんからお話をいただきました。これまでいろんな機会に何度もお話してくださって慣れているはずの飯塚さんが,最後の方に感極まって涙されたのが印象的でした。飯塚さんにとっては,裁判に至るまで,ほんとにほんとに長い道のりだったのだということが伝わってきました。

 

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次に,熊本から駆けつけてくださった,熊本訴訟の原告代理人の松村弁護士からのお話がありました。松村弁護士のお話を聞くのは初めてという方も多いと思いますので,少し詳しく紹介したいと思います。

松村弁護士

松村弁護士「今日の高辻先生の意見陳述,皆さんも見て持っていらっしゃいますよね。これ,当時の担当者の言葉は聞かれました?悪魔の饗宴ですよ,無節制無反省な繁殖が続けられていくという。これは,いいですか皆さん,ここにいらっしゃる皆さんのことです。皆さんが悪魔であって無節制な繁殖を続けていく方々なんですね。そして,それは私もなんです。優生保護法の中では,親族の中に障害者とかがいたならば,親族もまた優生手術の対象になっていました。私はきょうだいに障害者がおります。そうすると私も悪魔です。無節制な繁殖を続ける者なのです。こういう法律なのです。これはおかしい,それが今回の裁判です。

熊本も,東京と同じように,法律そのものがおかしい,それに従ってやった手術もおかしい,そしてそれを救わなかったこともおかしい,とやっています。熊本では,実は,今回の優生手術は,残虐な刑罰に等しいという主張もしています。残虐な刑罰というのは憲法で禁止されているのです。

今日高辻先生の悪魔の饗宴というのを聞きながら,これは本当に残虐な刑罰だったんだ,当時これを決めた国こそが悪魔だったんだ,と思いました。ただ,残念ながら,当時は我々弁護士だって,これが憲法違反だなんて気付かずにこれを放置してしまった,その反省もあります。

それと,この問題は,ここは,マスコミの方で考えてほしいんです。裁判は,優生思想を問うています。優生思想は過去のものではありません。現在も生きています。出生前診断は皆さんされてますよね。ほとんど9割がたの方々がされています。これをね,責めることができない。なぜならば,今,やっぱり,障害者が社会に出てきたら住みにくい社会になっています。だから,これを責めることはできないけども,我々がすべきことは,障害者が生まれることをとめるのではなく,障害者が生まれてきても一緒に生きていけるような社会を作ろうという,そういう風にしたいんです。どうかマスコミの方々には,この裁判の報道について一過性ではなく。私も含めです,どこか皆さん心の中にありますね,障害をもったら嫌だなって。あるでしょ?私たちの心の中にある優生思想,それを問い直すような,そういう報道を続けていただきたいという風に思います。熊本の裁判はそういう観点で続けていこうと思っていますし,きっとここに並んでいる弁護士先生方も同じように考えられていると思います。

これからもご支援をどうぞよろしくお願いいたします。」

 

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松村弁護士のお話の後,東京弁護団長の関哉弁護士から,第1回期日とその後の進行協議期日の報告がありました。(裁判期日については,裁判報告記事と重なる点が多いので,そちらを参照してください。)

裁判の後の進行協議期日で,裁判長が9月10日付けで異動になるという報告があったそうです。裁判長によれば,「次の裁判長にちゃんと引き継ぎますし,左右の裁判官はそのまま残るので,そういう意味でも実質的に引継がれます」とのことでした。

 

関哉弁護士

関哉弁護士「我々は,他の弁護士はどうかわかりませんけど,今日を迎えるまでいろいろ不安がありまして,今日も直前までいろいろ不安なやりとりをしていましたけども,こうやって皆さんがひとりひとり駆けつけてくださると本当に嬉しいなというのがちょっとほっこりして,安心して裁判を進められたなと思います。次回もぜひよろしければいらしていただきたいなと思います。

また,先ほどの松村弁護士の話にもありましたが,マスコミの力は大きいので,今日もたくさん来ていただいてますけど,マスコミの方々と一丸になって,一緒に支えながらこの事件は進めていきたいと思っています。こうやって報道される日が長く続く中で,ちゃんと世間の声に応えるような救済制度ができてほしいと思います。また,裁判も,そういう風な注目を受けながら,裁判官がしっかり思いを持って帰ってほしいと思っています。

(中略)

それと,ひとつお願いがあります。争点のひとつとなるであろう事実関係の点で,北さんには公的記録が出てきていません。北さんは施設(教護院)に入れられていました。障害というカテゴリではなく,なぜ教護院で優生手術が行われなければならなかったのか,というところに焦点があたってくると思うので,みなさんがそういった情報をどこかで入手されることがあったらぜひ教えていただきたいというのが率直なところです。

それで,ここは小さな声で,今日も出口にカンパ箱を置かせていただきますので,よろしくお願いいたします。弁護団,何に一番費用がかかるかというと,会場費用,交通費が一番かなと思います。提訴の時にもカンパを集めさせていただきましたので,今日は少なめでもかまいませんので,本当に気持ちでかまいませんので(くどい!笑),もしよろしければ出口でカンパをお願いできればと思います。」

…関哉弁護士のお話は,いつ聞いてもほのぼのしますね。当日の午前中,他の弁護士らがやや殺伐とした雰囲気の中,原告代理人意見陳述の原稿をわかりやすい言葉バージョンに直している間も,関哉先生のほのぼの感は発揮されておりました。(しかもいつの間にかみんなのお弁当買いに行ってるし!もとい、行ってくれてるし。というか,行ってくれちゃってるし?)

 

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期日の報告の後は,45分ほど会場の皆さまと意見交換の時間を設けました。裁判での合理的配慮への感想やご意見,訴訟についての質問やご意見など,様々な方と意見交換でき,弁護団にとってもたいへん有意義な機会となりました。

 

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その後,仙台弁護団の団長の新里弁護士のお話がありました。

新里弁護士「全国の弁護団もできておりまして,200人ぐらいの,特に東京の先生方も若い方が多いんですけど,非常に若い。今,若い弁護士さんたちがこの問題,70年前の法律の問題に取り組んで変えていこうよ,と。それを後押しいただいたのは,やっぱり被害者の声なんだなと。よく被害者の声が社会を変える力だという風に思っていて,今回もまさしく,飯塚さんをはじめ,北さん,そういう声を上げてきたから,その皆さんに共鳴をしてここまできてるんだろうなと思っています。

今,全国で原告となっている方は7名です。2万5000名分の7名ですけど,僕は,ひとりひとりの被害というのは非常に重くてですね,2万5000名を代表しているんだろうなという風に思っています。

ただ,国はやっぱり生半可じゃありません。法律を改正して22年放置しているのを,今マスコミがこれだけ報道してくれるから,何か制度が変わるよねって思ったら,そんな国って甘いもんじゃないと僕は思っているんです。ですから,被害者がさらに声を上げる,今日の北さんの声に勇気をもらって各地で声を上げていく,そしてそれを弁護団がサポートするということを続けて,ずっとずっと国を追い詰めない限りは,裁判でも勝てませんし,制度も出来ていかないのではないかなと。

それから,東京の裁判長が変わるという話でしたけど,実は仙台の「憲法判断を回避する予定はない」と言った裁判長も4月から新しい裁判長になった人です。東京の新しい裁判長にも期待しましょうよ。僕は,裁判所の能力に期待するんじゃなくて,裁判長も人の子だと思うんです。この被害者の声を,真摯に受け止める人であろうということを期待したい。

北さんが,国の代理人にあれだけ頭を下げてですね,ちゃんとやれよっていうことを言ったんじゃないかなと思ってですね。本当に北さんは礼儀正しくて。礼儀正しくないのは国じゃないかということを突き付けてくれた。それをきっとあの若い東京の弁護団の方も受け止めて,更に頑張っていただけると思いますので,今後とも本当によろしくお願いいたします。みんなで闘っていきましょう!」

 

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最後に北さんからの挨拶がありました。

「私は,飯塚さんの,名乗りを上げてください,という新聞を見ました。名乗りを上げるっていうことは,どんなに勇気がいるのか。私は,名乗りを上げる前に姉と相談しました。そしたらどうすんの,って…。どうするって,親父がやったんじゃない,施設がやったんじゃない,国がやったんだ,私はそう思いました。私は名乗りを上げました。私は,一人でできないっていうことは自分の頭にありました。やってやるぞ,国と闘って,前に進んでいこうと思いました。一人じゃ何もできない。みんなの力を借りて,大きな力を借りて,私は変わりたいと思って,前に出させていただきました。本当に,皆さんの力をもってここまでようやっとやれたことは,私は本当に感謝しております。どうか皆さん,これからも長くかかるかもわかりませんけれども,これからもどうぞよろしくお願いいたします。」

 

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皆さんの言葉を紹介していたら,とっても長い記事になってしまいました。これでも書けていないことはたくさんあります。でも,新聞やテレビで報道されないことの中にも,大切な言葉がたくさんたくさんあって,それを少しでも多くの人に届けたいと思っています。最後まで読んでくださった方,ありがとうございました!

8月 7, 2018