救済法成立に対する声明・記者会見

本日(平成31年4月24日), 優生保護法による被害者に320万円を支給するという 救済法案が成立しました。これに対して,15時から衆議院第一議員会館多目的ホールにおいて,記者会見を行いました。最初に,弁護団声明を掲示しておきます。

なお,兵庫県弁護団・熊本弁護団は,別途声明を発表しているので,それも併せて掲示しておきます。

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【記者会見の記録】

以下,記者会見の模様をお届けします。なるべくそのままの言葉を残せるよう心掛けましたが,記録の限界もあり,発言そのままではありませんので,その点はご了承ください。

新里弁護士:昨年提訴の段階で法案成立は予想できなかった。
 作った国会議員の先生は,裁判から切り離された形で法律ができることについてどのように思ったのか。国が十分な保障をすることが目的だったので,320万円はわたしたちが要求していることとはかけ離れているのかなと。総理の談話が出たこと自体は評価したい。
 懸念されるのは,被害者が実際にこの制度を使えるかどうか。実被害者は2万5000人,そのうち5400人しか特定されていない。プライバシー侵害をおそれて通知ださなかったらどうするのか?また,だまされて手術した人は申し出られない。制度について,国がきちっと説明しなければならない。
 今,仙台の裁判が最終盤の中,障がい者団体の声を聴いてほしい。参考人招致を求めたところであるが,叶わず,私達の声が届かなかったのは非常に残念だ。調査は国会から独立したような形で行われるべきと考えている。調査が続行されるのか見届ける必要がある。
 (法案成立は)被害回復の第一歩だが,司法の判断が国の責任を認める可能性は高いと思っている。司法の判断を国・内閣がもう一度見返してほしい。

北さん:皆さんこんにちは,北三郎です。
 御忙しい中このような場を設けていただきありがとうございます。家族の会,北三郎です。この問題に長くかかわってきた飯塚京子さんと共同で関わっています。飯塚さんが全国の被害者のために活動してきたことが,全国20名の原告による訴訟につながりました。これまでのご協力に感謝します。しかし,もっと検討してほしい点が救済法にあります。
 まず,救済法の中に,我々がお詫びすることとある点。法案起草の件,という書類の中には,「我々」という言葉がある。説明によるとその「我々」の中に国や政府が含まれている,ということらしいが,こちらとしては騙されている気分。私は,この手術は国がやったことと知ることで,ようやく亡くなった家族を恨む気持ちがなくなった。私の姉も同じようです。姉は一生口にしてはならないという秘密を口にしたことでようやく解放されたようです。国が謝罪することにはそれほどの意味がある,ということを理解してもらいたいのです。
 次に,名前が分かっている人には手術の内容を最善の方法で伝えるべき。現在健康を害している人,報道に接していない人,家族から手術について知らされていない人もいるはず。救済法ができ,国が謝罪してもわからない人がいる。名前が分かっている人に対し通知をしない,といっているが,それでは本当の意味での謝罪にならない。通知受け取るかどうか,被害者が判断するべき。
 さらに,国は責任をもって救済の道を示してほしい。国はしっかり事実を調査し反省してほしい。ここまで長い時間かかりました。亡くなった人もいます。真実を明らかにされないまま人生を終えた人は,無念だったと思います。手術に関わった人も,起こったことを受け止めきれていません。当時何が起こったのか,詳しいことが分からない人も多いでしょう。被害者を多く生み出しておきながら,無理やり手術を受けさせることが何十年も続けたのはどうしてか。真相を究明してほしい。これ以上同様の問題が起こらないよう,反省し,対策してほしい。
 1年を振り返り,裁判所や参議院に顔を出してきました。支援してくださった方,心から感謝します。名乗りを上げてよかったと思っています。これからも応援よろしくお願いします。

飯塚さん:私は宮城から来た飯塚淳子です。もしも手術を受けた16歳に戻れるならと思っています。人生を返してもらいたい。国は誠意をもって謝罪をしてください。

佐藤さん:今日はどうもありがとうございます。昨年1月に提訴した佐藤ゆみの姉です。仙台地裁で5月28日に判決がでます。超党派議連で今回一本化した救済法案が作成され,最終的に参議院で可決されました。71年の月日を経て,一時金の支給等に関する法律ができあがった。今後公布,施行されることになります。
 参議院の集会を見ていましたけど,議員の先生方が思っていたような法案にならなかったのかなという点が散見されました。
 まず,立法措置について。被害者が一番求めているのは,国による謝罪です。法案前文には「我々はそれぞれの立場において」となっている。我々とは,優生保護法を制定した国や政府ということを指しているらしいですが,何十年先のことも考えれば,国による謝罪は必要です。係争中なので,国と明記できなかったのか,それなら判決出てから法律を作ってほしかった。実態検証してからでよかった。
 次に,周知の仕方。妹は知的障害です。この法律が施行されても,自分で理解して申請することできないと考えます。当時,妹の他にも4人の方が同時期に手術しました。プライバシー・立場の問題はあると思いますが,特定されている方には通知をする努力をしてほしい。手術されたことで人権侵害され,人権の回復も程遠くなると思います。庁舎に別室を設ける,郵送でも対応する,とされていましたが,庁舎には何十人も職員いる中で,周知徹底がされていて,明るく対応してくれるならいいですが,そうでなかったら…。別室での応対もいいですが,その取扱いには差別的な要素もあると思います。
 さらに一時金が320万円という点。被害者の人生を大きく狂わせ,後遺症を残したという状況を考えると,あまりに低すぎるのではないでしょうか。このような被害に320万円の価値しかないのか。今は法案成立について,共生社会への第一歩と考えたい。

東さん:東二郎です。私は4月18日の裁判の時から顔をきちんと出して訴えていくことに決めました。昔一緒だった仲間が,顔を見たら,名乗り出てくれるのはないかと思って決めました。
 私は,障がいがあることを不幸と思ったことはありません。祖父母にも大事にされ,学ぶことの大切さを学びました。今は好きな旅行や歴史のことを応援してもらってうれしいです。
 手術が,障がいが不幸だとして,生まれないようにした,ということを知りました。悲しくて悔しい,怒りたいです。強制的に手術を受けたことは,津久井やまゆり園で,仲間たちが殺されたことと同じだと思っています。今日,法律成立しましたが,国による謝罪はなかったし,通知もありませんでした。今後も,被害と苦しみを訴えていきたい。

米津さん:優生手術に対する謝罪を求める会は,97年から飯塚さんと共に活動してきました。厚労省に対し優生手術・子宮摘出に対し調査をすること,謝罪を求めることを行っています。
 法律は,今後,救済のための第一歩となるでしょう。ただ,今後改善を求めていきたい点がいくつもあります。特に,一時金の対象者の確認です。優生保護法による中絶は対象となっておらず,96年以降の違法な手術も対象外となっています。この点も見直していただいて,対象に入れてほしいと思います。
 また,優生保護法21条に基づく調査,報告書の作成も行っていただきたい。今回,障害を持つ人が,子どもを持つか持たないか決める権利があることを認めていただいたものと思っています。現在の医療や福祉の現場でこれが守られているのか,今後ここに注目していただきたい。子どもを持ちたいと思っているかどうか,あらかじめ本人に確かめることは,治療にもかかわってくる問題です。医療や福祉に携わる人達,その人達に伝えることで現場でも対応できると思います。

藤井:国会でおかした過ちを国会で取り返してほしい,その思いは今回かないませんでした。
 これまでの当事者の方・弁護団ご活動は評価したいが,法案については評価できない点が3つあります。
 まず,本来,法案作成前に国は謝罪すべき。内容も,法律全文をなぞるような内容。深いと思えなかった。国会としての謝罪決議,ぜひあげてほしい。国会としても考えるべき。謝罪の仕方として問題があります。
 次に,内容面の不備。顕著なのが「補償額」。未来の命を奪ったことへの代償が320万円ということはおかしい。スウェーデンを学ぶんだったら,福祉政策全般学ぶべき。ある部分だけ引っ張ってくるのは卑怯ではないか。障害があるからこんなものでいいんじゃないかという,障がい者差別さえ感じます。
 そして,審議の進め方。自らの主張を示しにくい知的のかたなどがたくさんいる。わかりやすいように説明しその場で意見を聴いてもらいたい。参考人招致を求めたが,全会一致の場面で難しいとされてしまった。被害者不在の全会一致。意見を言いたくても言えない。全会一致とはなんぞやと思ってしまいます。

米津:行政の人に手術受けたこと伝えるのはハードル高いけど,団体になら言える,ということはあるかもしれない。応援したい人には応援できる環境がある。

◇質疑応答◇

Q:参議院で全会一致で可決,手術を受けさせられると決まった場所も同じ場所。その時の気持ちは。

北さん:何の説明もないまま手術受けさせられたことに憤りを感じている。親と施設をだいぶ恨んでいた…

佐藤さん:法律施行されている中で,色々な意見があった。人権侵害があると言われながら,放置。飯塚さんの場合,当初被害を訴えた際には裁判ができないと言われた。その時「手術したという証拠を持ってきなさい」とも言われたと。優生保護法は戦後初で議員立法で成立した。今回の法案は,自分たちで決めたことを自分たちで変えたことを意味するもので,屈辱があると思う。そういったことを考えると今日の法案成立は感慨深いものがあった。

Q:救済法成立は,今後の裁判に影響があるか。

新里:基本的には影響がない。法律ができたことが裁判に影響与えるのか,ということは昨日の質疑応答で局長が否定している。裁判で,国は,救済法が成立する見込みなのでもう立法不作為の主張はできない,と主張しかけてきた。しかし,裁判と法案は無関係,ということなので,今後はそこを逆手に取っていきたい。

Q:裁判の結果が出る前に法案が成立したことについてどうお考えか。

新里:ハンセンのように,判決に基づいた救済を,ということを考えていた。今回は違った。色々違いはあるのだと思う。日本の救済制度の中では逆転してできている。国側として内閣総理大臣の談話が出ている。一国のトップが,解決をしなければならない問題,ということを受け止める。控訴するかどうかは国で決める,ということを今日は国が予備的に言ったのでは。順序逆転したが,司法判断がきちんと出るのであれば,国の謝罪,ということも出てくるのではないか。扉が開いた救済の第1歩であってゴールではない。最終的に被害者の声に寄り添えるような形で解決できれば。

Q:仙台訴訟の訴訟指揮への評価や結論への期待は?

新里:昨年6月13日に新しい裁判官が指揮をとったという形。憲法判断を回避する予定はない,ということはその時点で明確に言っていた。国に対してきちんと認否をしなさいと。裁判長は問題に真摯に向き合おうとしている。被害に向き合った判決が出るのではないかと考えている。

Q:今日法案が成立したが,今後裁判の結果を待たずに申請するのかどうか,現時点での考えを知りたい。

新里:法案成立が今日の今日なので,皆さんはっきり決めていないのでは。裁判結果待たずに請求するかどうか個人の自由だと思っている。当事者の方には弁護団との協議で決めていただければと。

Q:総理の談話について。どういう感想をお持ちか。

新里:これについては評価をしている。一国の総理が向き合わなければならない課題と認めたと捉えている。法案全文と内容がほぼ一緒ではあったが。5月28日の段階で,控訴するかしないか,もう一回この問題に向き合わなければならない時がくる。

米津:総理がお詫びをした,ということが広く伝わればいいと思う。優生保護法は間違っていた,ということをみんなが知っていく。

藤井:談話あったこと自体は大事。外国ではなく,国に戻ってきた時にもう一度説明すべきでは。また,タイミングが悪い。顔を出して,目線を上げてお詫びをしてほしかった。

北さん:ようやくこのことが,裁判が終わる,と言われたけど,納得いかない法律。第1歩がようやっとここまできた。重い扉が開いた。今後も頑張っていきたい。

新里:制度としてリンクすべきではないか。判決の上で制度作ってくださいと言ってきた。判決を踏まえて改正に向けた取り組みをしていきたい。

Q:法律できたことについてあらためてどう思っているか。

北さん:新しい法案ができた,ということだが,被害者の立場としては納得いかない。それは向き合っていない。法案に対してどうしても向き合っていない,法律を勝手に作っている。被害者に向き合って法律を作っている。

Q:今回一時金の額はスウェーデンを参考にされた,ということだが。

新里:スウェーデンに調査いってきたところ。被害者が2万6000人,2000人が被害者。医療ジャーナルは全員分揃っていた。しかし,通知は出していない。きちんとした周知を図れなかったのではないか。被害者のアクセス保障が不十分だった。申請しながら却下された事案もあった,基準が厳しかったのでは。消えた年金と同じで,きちんと通知ができなかったのでは。

昨日の国会の質疑の中で,知事が条例を出したいと言っていた。法律によって全く制限されないと言っていた。多くの人が救済を受けられるような仕組みに変えられるようにしていきたい。被害者に通知出してはいけません,ということではないということを示してもらった点で大きい。他の被害の関係で,アスベスト被害の際,労災と並行して補償受けられた。今回サポート受けられた人はもちろん,これまで訴えることができていない人がどうやったら声を上げられるか,速やかに検討していく必要がある。

Q:今後も原告募っていく方針は?

新里:変わらない。

Q:佐藤さんは妹さんに法案成立をどのように伝えたか。

佐藤さん:優生保護手術について詳細は本人知らない。お腹の傷のことは分かるので,お腹,傷つけられずに済んだのに傷つけられたことについてお姉ちゃんは闘っているんだよ,と説明した。自分なりに,姉が自分のために何かしてくれている,ということを理解しているはず。出かける時「頑張ってね」と応援してくれていたりする。妹が不自由ないように心がけている。知的障害があると,自ら訴えでることはなかなかできない。周知しても,被害者自らやる,ということは困難。また,実態調査をお願いしようにも,施設から結果が出てこないことも多い。そこにすごく問題がある。施設の職員等この問題に携わる人に対し,厚労省から広報活動をしっかりしていただきたい。

Q:法案成立について,当事者の方はどのようにお考えか。

飯塚:法律が成立したけれども,声を上げても進めなかったので,怒りの方がやっぱり強い。何十年,という月日が経ってしまった。この先前に進んでいけるのか,不安がある。

Q:今回の一時金額,スウェーデンのものを参考にしたということだが,福祉国家であるスウェーデンと日本,単純比較できないのでは。

新里:スウェーデンでの補償額は17万7000クローネ。その額を現在の貨幣価値に換算すると約320万円くらい,ということで今回の一時金額になったと聞いている。ただ,これが裁判基準になっているのか,というと全くなっていない。スウェーデンでは,パスポート変えるために手術をしなければならない,となっていたらしい。スウェーデンでこの問題を担当した弁護士によると,当初は45万クローネの請求を考えていたらしい。そうなると,日本円に換算すると約1000万円くらい。社会保障が充実している国(スウェーデン)と日本を単純比較してはならないと思う。スウェーデンでは先程申し上げたとおり,そもそも裁判はやっていない。やはり,本来であれば裁判基準を一時金の基礎として考えなければならないのではと考えている。しかし,間違った形で日本に基準が紹介されているのではを考えている。同種の賠償基準としてこれまで紹介されてきたことが残念。

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以上,記者会見の模様をお伝えしました。

東京訴訟の期日,法案成立と,連日の記者会見,みなさまお疲れさまでした。そして,弁護団は,この会見の後,居残りで弁護団会議だったのでした…。

今日の会見での発言でもわかる通り,この法案成立で問題が解決された,被害者が救済される,と思っている人はだれ一人いません。今後も,裁判の行方や国の対応にご注目ください。引き続き,応援よろしくお願いいたします。

4月 24, 2019