与党旧優生保護法に関するワーキングチーム 「基本方針骨子」に関する弁護団コメント
与党旧優生保護法に関するワーキングチーム(以下「与党ワーキングチーム」と言う)は、2018年10月31日、優生保護法被害者の被害回復に向けた議員立法の基本方針骨子をまとめた。
1996年に母体保護法への改正が行われて以降20年以上にわたり、厚生労働省は、被害者の訴えに対し「当時は合法であった。謝罪、補償、実態調査は行わない。」と言い続けてきた。
しかし、本年1月30日の仙台地方裁判所での提訴をきっかけに、優生保護法による重大な人権侵害の事実が表面化し、被害回復への世論が高まり、メディアでも大きく報道され、160以上の地方議会における被害者の早期救済を求める意見書採択といった動きにもつながっていった。そして、当弁護団にも、これまで声をあげることができなかった被害者からの声が寄せられ、現時点で、全国6地裁に13人の被害者(手術被害者10人)が提訴し、被害回復を訴えている。
これらの動きを踏まえ、本年3月に設置された与党ワーキングチームが、厚生労働省に優生手術被害者の記録の調査を求め、被害者が高齢であることなどの事情も踏まえ、極めて短期間に基本方針骨子をまとめ、優生手術被害者の早期の被害回復を実現しようとしていることについては、敬意を表するものである。
しかしながら、今般まとめられた基本方針骨子については、不十分な点もあり、さらなる検討が必要であると考える。
まず、基本方針骨子が、優生保護法が違憲であったことに何ら触れていない点は遺憾である。すなわち、係争中の裁判で、被告国は、優生保護法の違憲性を認否しないという態度を示しているが、1996年に「障害者差別に当たる」として母体保護法への改正をしたことからも違憲性は明らかである。
優生手術被害者は、リプロダクティブライツ(性と生殖に関する権利)に関する自己決定権を奪われたことだけでなく、優生思想を正当化した法律によって名誉及び尊厳が著しく損なわれたという点でも甚大な被害を受けていることから、国の施策によって、憲法に違反する著しい人権侵害が行われたことを認めたうえで、真摯な謝罪をすることは、被害回復に不可欠であると考える。
また、行政保有情報によって個人が特定出来る被害者に対して通知を行わず、被害者本人から厚生労働大臣宛に申請が必要とした点についても、再度の検討を求める。
確かにプライバシー等への配慮が必要であるが、被害者は、国の施策により、重大な人権侵害を受けながら、被害回復がなされないまま長く放置されてきたのである。そのうえ、今回の被害者には、その障害特性等から自ら被害回復を求めて行動することが非常に困難な人達が多いだけでなく、親による同意等家族も巻き込んでいたことから、家族の立場を推し量って言い出せない等の事情のある人達も多くいる。これら事情を鑑みることなく、法改正後20年以上たった今になって、被害者本人への補償制度に関する通知等申請を支援する仕組みのないまま申請を要件とすることは、施策として人権侵害を行っていた国の態度としては、不誠実である。一人でも多くの被害者に、国の謝罪と補償が届く方策を、障害者団体や被害者関係団体等の意見を聞き、検討を重ねるべきである。
補償対象者を被害者本人限るとした点については、2018年10月25日付要望書記載のとおり、配偶者や遺族も含めて検討すべきであるし、認定機関についても、厚生労働大臣の所管ではなく、その構成、権限、事務局も含め、独立性の高い第3者委員会の仕組みとするべきである。
さらに、基本方針骨子では触れられていないが、真相究明等のための検証委員会を設置し、その提言を踏まえ、国が積極的に、優生思想を打破・根絶するための継続的な啓発活動や障害のある人の差別をなくすための施策を推進することは、我が国が批准している障害者権利条約上の義務でもあり、真の意味の被害回復の観点からもすべての関係者が切に望んでいることである。当該委員会による検証を補償と並行して実施することは必要不可欠である。
当弁護団は、今後もより良い被害回復制度となるよう求めていくが、与党ワーキングチームにおいても、さらなる検討がなされることを期待する。
以上
2018年11月2日
全国優生保護法被害弁護団
共同代表 新 里 宏 二
同 西 村 武 彦
与党旧優生保護法に関するワーキングチーム 「基本方針骨子」に関する弁護団コメント(PDF版)