弁護団声明 (旧優生保護法訴訟の東京高裁判決に対し上告受理申立がなされたことについて) 令和4年3月24日 全国優生保護法被害弁護団 共同代表 新里 宏二 西村 武彦 東京優生保護法被害弁護団 代表 関哉 直人 本日、旧優生保護法に基づいてなされた優生手術をめぐる国家賠償請求訴訟(以下「旧優生保護法訴訟」という。)に係る令和4年3月11日付け東京高等裁判所の判決に対し、国が上告受理申立てを行った。 東京高等裁判所は、優生条項の違憲性を正面から認め、厚生労働大臣の責任を認めた。また、本年2月22日に国会の責任を前提として賠償責任を認めた大阪高裁判決と同様、被害の重大性や国の責任を踏まえ、除斥期間の適用を制限した上で、優生保護法による被害者は一時金支給法の請求期間内(令和6年4月23日まで)は除斥期間の効果は生じないとして、被害者全員に被害回復の途を開いた。 大阪高裁判決及び東京高裁判決は、国の責任を明確にして一時金支給法を超える金額の賠償責任を言い渡し、司法府としての役割を果たしたものである。 他方、国会も、本件に関する判決が一つも出ない段階で、平成31年4月に「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」を制定した。同法の制定は、優生保護法の被害が知られるきっかけとなり、「全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現」への一歩になった。 しかし、優生思想の克服に向けた具体的な動きは未だないばかりか、今般、各高裁判決が認めた損害賠償額からも明らかなとおり、被害者の人生被害に対する回復としては十分なものではないことは、以前から当弁護団も指摘してきた通りである。 優生保護法の被害をめぐっては全国で25名の原告が提訴をしたが、すでに4名の原告が亡くなっている。優生保護法の被害者の多くは高齢であり、既に亡くなっている人も多い。 国は、裁判所が指摘した責任を省みず、大阪高裁判決に対しても、東京高裁判決に対しても上訴という判断をしたが、司法判断を先送りにし、国としての被害回復を怠ることは、被害者の人生を踏みにじる対応であるといわざるを得ない。 国は、速やかに両事件に関する上告受理申立てを取り下げるとともに、各地の地方裁判所又は高等裁判所に係属している事件も含めた全面的解決を早急に進めるべきである。 東京高裁の裁判長は、判決後、「差別のない社会を作っていくのは、国はもちろん、社会全体の責任」と述べたが、当弁護団としても、両高等裁判所が果たした司法府としての責務を無駄にすることのないよう、上告審への対応に加え、優生保護法被害者の一日も早い被害回復と早期全面解決、さらに、優生思想を克服し、誰もが等しく個人として尊重される社会の実現に向けて、不断の努力を尽くし、責任を果たす所存であることを改めてここに表明する。